CAN FD対応センサーとは
CAN FD(CAN with Flexible Data-Rate)は、従来のCAN通信を拡張した車載ネットワーク向け通信方式です。Classic CANと同じ考え方をベースにしながら、データ長の拡張とデータ部の高速化に対応している点が特徴です。
自動車の電動化、ADAS、自動運転、バッテリー制御、車両統合制御が進むにつれて、センサーが扱うデータ量は増加しています。温度、電流、圧力、加速度などのセンサーデータをより高頻度・高精度に取得するために、CAN FD対応センサーの採用が広がっています。
本ガイドでは、CAN FD対応センサーを選ぶ際に確認すべきポイントを、車載センサー選定の観点から解説します。
CAN FDが必要になる背景
従来のClassic CANは、車載制御ネットワークで長く使われてきた信頼性の高い通信方式です。一方で、近年の車両ではECUやセンサーの数が増え、送受信するデータ量も増加しています。
特に以下のような領域では、より多くの情報を短時間で送る必要があります。
CAN FDは、こうした用途でClassic CANよりも多くのデータを扱いやすくするための選択肢です。
- EVバッテリー監視
- インバーター制御
- モーター制御
- ADAS
- 車両姿勢制御
- シャシー制御
- 急速充電システム
- 故障診断・ログ取得
CAN FD対応センサーの主なメリット
1. 1フレームで送れるデータ量が増える
Classic CANでは、1フレームで送信できるデータは最大8バイトです。一方、CAN FDでは最大64バイトまで送信できます。
これにより、複数の測定値、診断情報、ステータス情報、エラーコードなどを1つのフレームにまとめて送信しやすくなります。
たとえば、3軸加速度センサーでは、X軸、Y軸、Z軸の測定値に加えて、温度補正値、診断ステータス、タイムスタンプなどをまとめて送信する設計が可能になります。
2. データ部を高速化できる
CAN FDでは、アービトレーション部とデータ部で異なるビットレートを使うことができます。これにより、バス上の優先順位制御を維持しながら、データ送信部分を高速化できます。
高頻度でデータを取得するセンサーや、ログ取得を重視する開発用途では、通信時間の短縮が大きなメリットになります。
3. センサー点数が多いシステムに向いている
EVバッテリーパックや商用EVでは、温度センサー、電流センサー、圧力センサー、加速度センサーなど複数のセンサーを分散配置することがあります。
CAN FDを採用することで、センサー数が増えた場合でも、通信帯域に余裕を持たせやすくなります。
4. 診断情報を扱いやすい
車載センサーでは、測定値だけでなく、自己診断、断線検知、異常検知、温度状態、通信状態などの診断情報も重要です。
CAN FDではペイロードに余裕があるため、測定値と診断情報を同時に送信しやすくなります。
CAN FD対応センサーが向いている用途
EVバッテリー監視
EVバッテリーでは、温度、電流、圧力、振動などの複数データを組み合わせて状態を監視します。
CAN FD対応センサーを使用することで、測定値に加えて診断情報や状態フラグを送信しやすくなります。
推奨製品例:
ADAS・車両姿勢制御
ADASや車両姿勢制御では、加速度、角速度、姿勢変化、振動などを高頻度で取得する必要があります。
CAN FD対応の加速度センサーや6軸センサーを使用すると、高頻度データと診断情報を効率よく送信できます。
推奨製品例:
商用EV・大型EV
商用EVや大型EVでは、バッテリーパックが大型化し、監視点数も増える傾向があります。長時間稼働、高温環境、大電流、高負荷条件に対応するため、複数センサーの情報を安定して取得できる通信設計が重要です。
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急速充電システム
急速充電では、大電流や発熱の監視が重要です。電流センサーや温度センサーの測定値を高頻度で取得し、異常時には速やかに制御へ反映する必要があります。
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CAN FD対応センサー選定のチェックポイント
1. CAN FDが本当に必要かを確認する
すべてのセンサーにCAN FDが必要とは限りません。
低頻度の温度監視や単純なON/OFFに近い監視であれば、アナログ出力、SPI、Classic CANで十分な場合もあります。
CAN FDを選ぶべきケースは以下です。
- 送信データ量が多い
- 複数の測定値を1フレームで送りたい
- 診断情報も同時に送りたい
- センサー点数が多い
- 高頻度サンプリングが必要
- 将来の拡張性を確保したい
- ECU側がCAN FD前提で設計されている
2. データ量を見積もる
CAN FD対応センサーを選ぶ前に、1回の送信で必要なデータ量を整理します。
たとえば、3軸加速度センサーの場合、以下のようなデータが考えられます。
Classic CANでは複数フレームに分ける必要がある情報でも、CAN FDでは1フレームにまとめられる場合があります。
- X軸測定値
- Y軸測定値
- Z軸測定値
- センサー温度
- 診断ステータス
- エラーコード
- タイムスタンプ
- CRCまたはチェック情報
3. 必要な更新周期を確認する
センサーごとに必要な更新周期は異なります。
温度監視では数百ミリ秒から数秒単位で十分な場合があります。一方、加速度や車両姿勢制御では、より短い周期での取得が必要になることがあります。
選定時には、以下を確認してください。
CAN FD対応であっても、バス全体の設計が適切でなければ、期待した更新周期を実現できない場合があります。
- センサーのサンプリング周期
- ECU側の取得周期
- 通信バスの負荷
- 他ノードとの通信量
- 異常検知に必要な応答時間
4. ECU側の対応状況を確認する
CAN FD対応センサーを採用するには、センサーだけでなく、接続先のECUやゲートウェイもCAN FDに対応している必要があります。
確認すべき項目は以下です。
既存のClassic CANネットワークにそのままCAN FDノードを追加できるとは限らないため、ネットワーク構成の確認が重要です。
- ECUのCAN FD対応
- トランシーバのCAN FD対応
- 通信速度設定
- 終端抵抗設計
- 配線長
- ノイズ対策
- 診断ソフトウェア対応
- DBCファイルや通信仕様書の整備
5. 通信速度だけで判断しない
CAN FDはデータ部を高速化できますが、実際の通信品質はビットレートだけで決まりません。
配線長、分岐、終端、ノイズ環境、コネクタ品質、トランシーバ性能、EMC対策などが通信安定性に影響します。
特に車両下部やバッテリーパック周辺では、インバーター、モーター、高電圧配線などからのノイズ影響を考慮する必要があります。
6. 診断機能を確認する
車載用途では、測定値だけでなく、センサー自身の状態を把握できることが重要です。
CAN FD対応センサーを選ぶ際は、以下の診断情報を取得できるか確認してください。
診断情報を同時に送信できることは、CAN FD対応センサーの大きな利点です。
- センサー異常
- 通信異常
- 電源電圧異常
- 温度異常
- 測定範囲外
- 断線・短絡検知
- 内部自己診断
- キャリブレーション状態
7. 車載品質・機能安全への対応を確認する
CAN FD対応であっても、車載用途に必要な品質や安全要求を満たしているとは限りません。
選定時には以下を確認してください。
安全機能に関係する用途では、通信方式だけでなく、センサー全体の安全設計が重要です。
- AEC-Q100対応
- ISO 26262への対応状況
- ASIL要求への適合性
- EMC評価
- 耐振動性
- 動作温度範囲
- 防水・防塵性能
- 長期供給性
- トレーサビリティ
センサー種類別のCAN FD選定ポイント
温度センサー
温度センサーでは、測定値そのものは比較的少量ですが、複数点の温度監視や診断情報を扱う場合にCAN FDが有効です。
確認ポイント:
CAN FDが向く用途:
推奨製品例:
加速度センサー
加速度センサーは、複数軸データを高頻度で送信するため、CAN FDとの相性が良いセンサーです。
確認ポイント:
CAN FDが向く用途:
推奨製品例:
電流センサー
電流センサーでは、大電流の充放電状態を安定して監視することが重要です。CAN FDにより、電流値、温度、診断情報、異常フラグをまとめて送信しやすくなります。
確認ポイント:
CAN FDが向く用途:
推奨製品例:
圧力センサー
圧力センサーでは、冷却回路やHVAC、油圧系統の状態監視でCAN FDが有効です。測定値に加えて、温度補正、異常診断、レンジ外検知などを送信できます。
確認ポイント:
CAN FDが向く用途:
推奨製品例:
Classic CANとCAN FDの選び分け
Classic CANが向いているケース
- データ量が少ない
- 更新周期が遅くてもよい
- 既存ネットワークがClassic CAN中心
- コストを抑えたい
- 診断情報が少ない
- センサー点数が少ない
CAN FDが向いているケース
- データ量が多い
- 高頻度サンプリングが必要
- センサー点数が多い
- 診断情報を多く扱いたい
- 将来的な機能拡張を見込む
- ECU側がCAN FD対応済み
- EV、ADAS、商用EVなど高機能車両向け
よくある選定ミス
CAN FD対応という表記だけで選ぶ
CAN FD対応と記載されていても、対応ビットレート、診断情報、通信仕様、DBC提供有無などは製品によって異なります。
必ず通信仕様書を確認してください。
ECU側の対応を後から確認する
センサーがCAN FD対応でも、ECU、ゲートウェイ、診断ツールが対応していなければ使用できません。
試作前にネットワーク全体の対応状況を確認することが重要です。
バス負荷を見積もらない
CAN FDはClassic CANより多くのデータを扱えますが、無制限に通信できるわけではありません。
センサー数、送信周期、データ長、他ECUの通信量を含めてバス負荷を見積もる必要があります。
ノイズ環境を軽視する
EVでは高電圧系、インバーター、モーター、急速充電器などノイズ源が多く存在します。
配線、シールド、終端、グランド設計、コネクタ選定を含めた検討が必要です。
将来拡張を考慮しない
初期仕様ではClassic CANで足りていても、量産後に診断情報やログ取得項目が追加されることがあります。
将来的にセンサー点数やデータ項目が増える可能性がある場合は、CAN FD対応製品を選んでおくことで設計変更リスクを抑えられます。
シンメトリックセンサーのCAN FD対応製品例
EVバッテリー監視向け
ADAS・車両姿勢制御向け
急速充電・高出力EV向け
用途別おすすめ構成
標準EV向け
標準的な乗用EV向けの構成です。CAN FD対応により、BMSとのデータ連携や診断情報の取得がしやすくなります。
商用EV向け
高温環境、長時間稼働、大型バッテリーパックを想定した構成です。CAN FD対応により、複数センサーの状態を効率よく監視できます。
ADAS・車両姿勢制御向け
高頻度の姿勢変化データや診断情報を扱う用途に適しています。車両制御ECUとの連携を想定した構成です。
導入前チェックリスト
CAN FD対応センサーを採用する前に、以下を確認してください。
- ECUはCAN FDに対応しているか
- トランシーバはCAN FD対応か
- 既存ネットワークはClassic CANかCAN FDか
- 通信速度設定は決まっているか
- 必要なデータ長は何バイトか
- 必要な送信周期は何msか
- バス負荷を見積もったか
- DBCファイルは提供されるか
- 診断情報は取得できるか
- AEC-Q100対応が必要か
- ISO 26262 / ASIL要求があるか
- EMC評価は必要か
- サンプル評価が可能か
- 量産時の長期供給性は確認済みか
まとめ
CAN FD対応センサーは、EV、ADAS、商用EV、急速充電システムなど、データ量やセンサー点数が増える用途に適した選択肢です。
ただし、CAN FD対応という表記だけで選ぶのではなく、必要なデータ量、更新周期、ECU側の対応、バス負荷、診断情報、車載品質、安全要求を総合的に確認することが重要です。
シンメトリックセンサーでは、温度、加速度、電流、圧力の各カテゴリでCAN FD対応製品をラインアップしています。用途や通信要件に応じて、標準EV、商用EV、ADAS、急速充電向けの構成をご提案します。